【第66回】コミュ力ってなに?
- 坂本 瑞生、渡辺 楓
- 2021年1月13日
- 読了時間: 8分
更新日:2021年6月22日
テーマ設定の背景
コミュニケーションが得意、あるいは苦手だということは、自己PRやコンプレックスの1つとしてよく挙げられるものです。しかし、コミュニケーションが得意な人にもいろいろな個性がありますし、コミュニケーションが苦手という人でも周囲からはそう見えないこともあります。では、コミュ力とは、具体的に何が得意/苦手なことなのでしょうか?
アイスブレイク
今回はアイスブレイクとして、皆さんの身近にいるコミュ力の高い人はどんな人かを聞きました。この質問では、皆さんからまったく異なった意見が出てきました。
「自分の友達で、すぐ他人と打ち解けられる人。」
「いろんなタイプの人と差しさわりのない会話ができる人。コミュ力が高い人は知識が豊富なのだと思う」
「ゼミの先生は質問がすごくて会話が途切れない。質問力のある人はコミュ力が高い人なのではないかと思う」
「高校の時入学して3,4日目に、教室の前でギャグを披露した友達。」
「小中高の同級生で、話に尾ひれをつけるのがうまい人。話に尾ひれをつけることで、その友達は場を盛り上げていた。」
「話しかけやすい人はコミュ力が高いのだと思う。会話していて安心感がある人もコミュ力が高いと思う。」
「自分から話を広げたり、自分から行動できる人はコミュ力が高いと思う。」
「お店に行ったとき店員さんと気軽に話せる人はコミュ力が高いと思う。」
「話し上手で聞き上手な人はコミュ力が高いと思う。」
お互いに気になったことを質問しあう
次は、それぞれがアイスブレイクで話してくれたことについて、お互いに質問しあうことにしました。最初は「尾ひれをつけるのがうまい人」と答えた方に向けて、「尾ひれをつけるとは具体的にどういうこと?」という質問があがり、以下のような対話が繰り広げられました。
「尾ひれをつけるとは具体的にどういうことですか?」
「その友達は内容をより壮大に話していた。また、表現がより大げさになっていた。」
「大げさに表現してツッコミを入れたくなるようにすれば、会話が弾むのかもしれないと思いました。」
2つ目に、「入学して3,4日目に、教室の前でギャグを披露した友達」と答えた方に向けて、「その後の実際の生活で、その人はコミュ力の高い人だった?」という質問があがりました。対話は以下のように展開しました。
「その後の実際の生活で、その人はコミュ力の高い人だった?」
「その後も場を盛り上げる役として活躍していた。ギャグを披露してからもコミュ力がある人だと感じていた。」
「たしかに、自分が高校の時もクラスに一人そういう人がいたと思う。」
ここで、別な参加者の方から意見が出てきました。
「自分のクラスにもそういう人がいた。その人は内輪ノリの話をせず、共通して笑える話題を挙げられる人だった。また、その人は内輪でない人を内輪に引き込む力があり、そういう人がいい雰囲気を作れる人だと思う。」
話し上手と聴き上手どっちが大切?
これまでは、話すのが上手な人(話しかけるのがうまい人、話す話題をうまく選ぶ人)をメインに話してきましたが、聞くのが上手な人もいるのではないでしょうか?
そこで次は、「話し上手」と「聞く上手」のどちらが大切なのか参加者の方々に意見を聞くことにしました。参加者の方々から挙がってきた意見は以下の通りです。
「話し上手な人は聞き上手だと思う。」
「人に知り合ってからの時期で、話し上手と聞き上手は変わってくるのでは。」
「どっちも持ち合わせていて、場の雰囲気に応じて、話し上手と聞き上手をうまく切り替えることが大切だと思う。」
「初対面の時はファーストインプレッションが重要なため、話し上手のほうが優先すべき能力だと思う。」
ここで、参加者の方からコミュニケ―ションに関するアイデアが出てきました。
「会話をしているうちに相手の情報が得られるのだと思う。会話の中で話のタネを生み出していくことができると思う。」
「質問して相手から聞き出す能力が、コミュニケーション力に関わっているのでは?」
「他人の雰囲気に応じてコミュニケーションのスタイルが変えられる人は、コミュ力が高いのだと思う。」
「信頼関係がコミュニケーションにおいて大切なのだと思う。」
相手の話を引き出せるのはどんな人?コミュ力の高い人ってどんな人?
先程の対話で「聞き出す能力」というキーワードが出てきましたが、相手から話を引き出せる人はどんな人なのでしょうか?出てきた意見は以下の通りです。
「相手の気持ちが分かっている人だと思う。」
「話を聞いて寄り添ってくれる人だと思う。」
「自分の話をしてから、相手の意見を求めることができる人だと思う。この能力のおかげで、相手は話しやすくなると思う。」
「相手のことを少しでも覚えている人が、話を引き出すのがうまいと思う。」
ここで、コミュ力の高い人はどういう人なのか、意見が出てきました。
「自分の興味のない話でも、ある程度の話ができる人がコミュ力の高い人だと思う。」
「相手に関心を持ったり、リスペクトをしている人はコミュ力が高いと思う。」
コミュ力を一言でまとめると…
ここまでの対話を振り返って、参加者の方々に「コミュ力」を一言でまとめてもらうことにしました。皆さんのまとめは以下のようになりました。
「相手について話し上手。」
「立ち回り(状況に応じて話し上手と聴き上手を切りかえられること。)が上手な人はコミュ力が高いと思う。」
「人といるのが楽しめる人はコミュ力が高い。」
「相手ことが好きになれる人はコミュ力が高いと思う。」
「共感できる、別な人の意見を大切にできる能力だと思う。」
「相手主体で話ができる人はコミュ力が高い。」
「聞き上手を前提として、雰囲気を作るのがうまい人はコミュ力が高いと思う。」
「臨機応変な人はコミュ力が高い。」
まとめ
今回は、コミュ力について、話す能力、聴く能力、雰囲気や気持ちの問題から考えていきました。話す能力、または聞く能力の方がより大切だという意見は出てきたのですが、どちらか一方が独立して大切という意見は出てこなく、両方の能力をある程度備えていることが大切だという意見がしばしば出てきました。また、話す、聴くといった能力に加えて、状況を考えて相手に寄り添ってコミュニケーションをとったり、相手に対する尊敬の念や信頼をもってコミュニケーションをすることが大切だという意見が出てきました。
ファシリの反省
今回のかんがえるソファでファシリテーターを務めた坂本です。ファシリテーターの立場から、今回の哲学対話の振り返りをしてみたいと思います。
今回は「コミュ力」をキーワードに対話を行いました。英単語のcommunicate/communicationは「情報伝達」という訳語が与えられます。しかし、私たちが日常で用いる「コミュニケーション/コミュ力」ということばは、単に何かを伝えるということ以上の意味を持っているような気がします。特に、就職活動でコミュニケーション能力を長所としてアピールしたり「私はコミュニケーションが苦手」と思い悩む場面では、それが顕著です。そんな「身近さ」と「捉えにくさ」がふさわしいのではないかと思い、今回の対話のテーマとしてコミュ力を取り上げることにしました。
今回は、序盤からたくさんのエピソードやアイディアが湧き出てくるアクティブな回になった印象です。「話し上手/聞き上手」や「場の状況に応じる」「相手からの反応を引き出す」といったキーワードが早くから挙がり、それに伴って事前に想像していたよりも早く対話が展開していったなあ、と感じています。参加者の皆さんにとって身近な話題だったということも一因なのかもしれません。
こうした中で、ファシリテーターとしての最大の反省点をあげるならば「後半の失速」に尽きます。対話の後半で新しいアイディアを誘発するような問いを投げかけることができなかったなあ、と感じています。良い問いかけをできれば、もう一歩か二歩、コミュ力への理解を深められたはずです(これは、最後のまとめの際に自分なりに一歩踏み込んだまとめを出してくれた方が何名か見受けられたことからも感じられます)。最後に踏み込み切れなかった理由は
①事前の想像よりも話の展開が早かったこと
②早い段階で全体としておおむねの対話の方向性が見えてきたこと
③話題への介入を意識的に控えていたこと
が挙げられそうです。
今回のファシリテーションではいつも以上に努めて「参加者から出たキーワードを整理して、対話を促す」ことに注力しました。それは、参加者同士のやり取りを生み出すというプラスの結果ももたらしましたが、上記③のように、対話をもう一歩深めるような問いかけを妨げる結果にもなってしまいました。
このような問いかけに尻込みしたことには理由があります。それは、「私自身がテーマについて考えていることがありすぎる」ということです。実は、私は言語学を専攻していて、文法とコミュニケーションのかかわりを研究テーマ(の1つ)に掲げています。そうした観点から見て興味深い意見などが多数上がったのですが、「言語学の議論ではなく、哲学対話として場を成り立たせなければ」という意識があったため、私の個性を薄くする方向にファシリテーションの舵を切ることを選んでしまいました。結果的に対話は盛り上がりましたが、もう少し私から内容に切り込んでも良かったのかなあ、と振り返っています。
最後に、対話の中で出てきた個人的に興味深かったアイディアをいくつか挙げてみたいと思います。
・状況に応じて役割(話す/聞く、など)を調整できるのがコミュ力の高い人
・相手にリスペクトを持ち、共感できるのがコミュ力の高い人
・自分が最初に話をすることで、相手の次の発言を引き出せる
・相手からの「ツッコミ」を期待した発言で会話を展開することができる
・相手への信頼感が「話しかけやすさ」につながる
こうしたアイディアは、言語学的に見ても非常に納得のいくもので、意見を聞きながらわくわくしました(これらは「ターン交代」「結束性」といった言語学の概念と結びつきそうな予感がします)。
身近でありながら、掘り下げて見ると違った景色が見える。それが「(哲学的に)考える」ことの醍醐味ですが、今回はその一端が垣間見えた気がします。ただ、もう少し踏み込んでいく余地もある気がしています。それはファシリの技量不足で叶いませんでしたが、皆さんが独自に「もう一歩」を切り開いていくきっかけとなれれば、と思います。
テーマは変われど、かんがえるソファはまだまだ開催します。よければまたご参加ください。お待ちしています!
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