【第65回】伝統についてかんがえる
- 須田華、西塚孝平
- 2021年1月8日
- 読了時間: 8分
更新日:2021年6月22日
1月8日のかんがえるソファは「伝統についてかんがえる」をテーマに、ご参加いただいた5名の学生と一緒に、対話を深めました。
1.テーマ設定の背景
お正月といえば「年賀状」「おせち」「初詣」などが思い浮かびますが、最近は年賀状を送らない人が増えたり、おせちも食べない人が増えているという話を度々耳にします。これを受けて、年賀状やおせちなどの「伝統」を残そうという動きも起こっていますが、そもそもなぜ伝統は残すのでしょうか?「伝統=残すべきもの」という固定観念を一度溶かして、「伝統」とは何なのか?なぜ残すのか?そこには一体どんなものが隠されているのか?など皆でかんがえてみましょう!
2.アイスブレイク:年末年始の過ごし方を教えてください!
初めに、年末年始の過ごし方を伝え合いました。実家で家族とのんびり過ごしつつ、でも大学の課題やバイトにも励むなど、有意義な時間を過ごしていたようです!
・元旦はおせちやお雑煮を食べ、家族とお酒を飲み、寝ていた。2日はレポートを作成して、お正月はすぐ終わってしまった。
・年末は、年越しそばを食べ、紅白を見ていた。元旦は朝10時に置き、朝ご飯と昼ご飯が一緒になり、だらだら過ごしていた。
・実家に帰省し、家族と過ごした。大晦日は嵐のラストライブを家族で見ていた。
・おせちを食べながら、脂肪が筋肉に変わってほしくて筋トレをしていた。
・年末は温泉や旅行など。正月は神社でダルマを買い、抱いて寝た。後はバイト漬け。
・実家に帰省していた。こたつで課題図書を読んでいた。
・実家や帰省先でないと食べられないものをたくさん食べてきた。
3.年末年始ならではのこととして、何をしていましたか?
はじめに、アイスブレイクの内容も含めて、年末年始ならではの行動や行事などをもう少し具体的に思い出してもらい、伝統を考えていきました。国、地域、家族など、色々な範囲の伝統が挙がりました。これは最後に出てきた意見になりますが、しめ縄作りは副収入にならない点で非合理的であり、しかしそれでもなお続けているとしたら、経済的価値以外の違う価値や意味がそこにあるのではないか、といった考えもありました。
・しめ縄を再生するボランティアをしている。継承者問題があり、自ら作って販売もしてきた(けど、売れ行きはそこまで好調ではない)。
・お煮しめ、おせちの準備をしていた。正月は包丁を使わないというルールがある。
・年末に年越しそばを食べる、年末特別番組を家族で見るといったことは、風習やルーティンになっている。風習は伝統と違って固さはないけど、年末年始は家族が今年も無事に集合できたことを喜ぶなど、昔から続いてきた流れがあって、自分たちもそうしている。
4.どうして私たちは伝統的なことをするの?
このような伝統をやり続ける理由は一体何なのでしょうか。伝統はいつでも止められそうですが、それでも行い続けることがあります。そこで次に、その背景には何があるのかを考えました。皆さんの答えには、安心感、喪失感、使命感、期待感、継続することへの重要性、などがありました。
・安心感が得られる、慣習に乗っかると外れ者ではない感覚になる。
・しめ縄継承は、自分がやらなかったら二度と戻ってこないという喪失感と使命感がある。
・自分がダルマを買わないとその文化がなくなってしまう、と思うと恐怖感も出てくる。
・そもそもおせちを作ることに強制さは感じない。食べたいから食べてる。おせちがなかったら年末年始は何を楽しむのか?と思うほど、イベントや季節の行事への楽しみがある。
・今まで続いてきたものを自分たちも続けることが大事、という感覚がある。自分の世代で無下にはできない(使命感とは少し違う?)
5.二度と戻せないこと(なくなってしまうこと)が、どうして悲しいの?
その中でも特に、喪失感や恐怖感といった悲しさにフォーカスすることにしました。途切れさせたくない気持ち、やめたくないという感情はどこからやってくるのでしょうか?キーワードとして、コミュニティ共通の話題、過去の財産、優しさ、などが挙がりました。
・お正月は家族で共有できる話題であり、もしなくなってしまうとコミュニティ(家族)の中で共通の話題が作れない。伝統があることで、一体感を味わっている。
・伝統は時間を超えて共有するもの。過去の人たちが残してきた財産を自分たちの代でなくなるのは悲しい。自分たちが過去の人たちとは変わってしまう気がする。
・伝統の土台には優しさや助け合いがある。生き物を殺さない、周囲の人と助け合って生きていこうなど、他者(自分以外)にとって何かプラスになることをしたいと思う気持ちが、伝統の根っこにはある。論理的には説明できませんが…。
しかし、そうした優しさが別な側面からみると差別などにつながることもある、という意見もありました。例えば、相撲は男子のみ、お茶くみは女性の役割といった、ジェンダーの問題です。(その優しさを信じて)守ったほうが良い伝統と、(優しさが一面的であるために)変えていったほうが良い伝統もありそうですね。
6.感想
最後に、参加者の皆さんと共有しました。伝統は現世代に生きる私たちの認識を超えた価値の問題でもあるということ、時間を超えてつながるためのコミュニケーションのツールであること、伝統が作り続けている歴史が厚く長いほど、伝統を継承したいと思う私たちの意志も高まることなど、新しい視点が出てきました!
・伝統(行事)に歴史があると、その文化の人たちが守り伝えようとして、さらに伝統の歴史が続いていくといった具合に、歴史の積み重ねと伝統は(互いに強化し合う)相互作用の関係にあるのではないだろうか。伝統自体がどうこうではなく、伝統を伝えることに対する美徳や意味があるのではとも思った。
・伝統は、過去と未来のつながりを感じるための(時間を超えてつながるための)ツールであったり、純粋に雰囲気を楽しむためであったり、伝統を終わらせるのが怖い、大衆に従ったほうがラクといった気持ちがそこにあるのではないか。
・伝統を残すか残さないかを判断するときは、今の状況からみたときの価値(時代に合っているか?)だけでなく、伝統を続けてきた人たちの優しさから生まれている価値も含めて、総合的にみていく必要があるのではないか。
・今見ている人の価値観、昔の人たちが持っていた価値観、後世の人たちが持っている価値観があって、必ずしも一致していないからこそ、伝統を残すかどうかを判断するのは難しい。しかし、不変的に続けていくものの中に安心や信頼があるとすれば、その伝統をアイデンティティにする人もいることを考えると、無下にはできない。伝統の良し悪しは、色々な価値観に照らし合わせて考えなくてはならない問題だと思う。
・伝統には、縦(時間)と横(空間)のコミュニケーション・ツールという性格があるように感じた。縦は過去、現在、未来の人とのつながり、横は今この時代を生きる人同士のつながりのこと。また、伝統は優しさが土台にあるだけでなく、例えば寂しさを埋めたいから年賀状を書き始めるなど、意外と自分勝手な側面もあり、コミュニケーションの口実にもできるものだと思う。
ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました!
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ファシリテーターの振り返り
今回のファシリテーターを務めた須田です。皆さんご参加ありがとうございました!
今回のかんがえるソファでは「私たちはなんで伝統を続けたいのか?」といういわば心の奥底にあるような「伝統を続けたくなってしまう気持ちの裏にあるもの」についてみんなで対話を進めました。普段かんがえることではないので、直ぐに意見がでるテーマではないですが、その分みんなでじっくり考えることで一人で考えても出せなかったような視点がたくさん出てきたのではないかなと思います。
ところでこれは純粋に私の感想なのですが、対話をしていく中で「合理的かどうかでいえば非合理的だけど...」というような「合理的か否か」といった視点が何度か出てきたと思います。私たちが伝統をめんどくさいなぁとか止めたいなとかを思うのは、私たちが今持っている価値観において非合理的(例えば時間がもったいない、人と会うのが面倒くさいとか)だからであって、生物としては非常に合理的であることがあるんじゃないかという視点が非常に面白かったです(これは対話の後のお喋り時間で出てきた話だったかもしれません)。生物として合理的というのは例えば、集団で何か祭りのようなことをやることで災害時の集団的な結束や機動力を高めたり、体力を普段から高めたり、もしくは共同で何かをやる中で男女の出会いがあったりとかということです。でもそういったことを「非合理的である」とパット見であれ判断する私たちの今の価値観って一体何なんだろうと思いました。私たちは生物であるという当たり前の大前提が忘れかけられているのかなとか、身体性(生物であるという大前提)を忘れた私たちの今の価値観でこのまま進めていったらどうなってしまうんだろうとか、そういうことを考えました。もっとも生物学的な合理性が分からなくなっているわけではないと思いますが、伝統の「形式」に囚われすぎて本当の目的(それを目的として伝統行事を作り上げたかどうかは分かりようがないですが...)が見えなくなっているから、やめようとか面倒くさいとかいう感情がでてくるのかなとも思いました。
ファシリテーションのふりかえりとしては、今回はなにかまとめたり、シンプルに整理したりといったことが上手くできなかったなと思いました。それは非常に皆さんの意見が面白くていろんな考えとか感情とかを聞きたかったからなのですが、ファシリテーターとしてはもう少しまとめたり構造化したりといった努力が必要だったなと反省しました。あとは私のファシリテーションも慣れなくてぎこちないところとか至らないところとか沢山あったので、もっと経験を積んで改善していきたいなと思います!皆さんご参加ありがとうございました!またお待ちしております(^^)
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